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「記憶に残るパスタ」
を作りたかった。

栃木県 宇都宮スパ屋

加藤裕のこだわり

今から26年前。茹で上げパスタのお店として、「宇都宮スパ屋」はオープンしました。当時は茹で上げパスタがまだ珍しく、開店早々多くのお客様で賑わう日々でした。その後、ここ宇都宮にもイタ飯ブームが起こり、雨後の筍のようにイタリアンのお店が続々と出店。どのお店も同じようなメニューを売りにして、同じようなパスタばかりを販売していました。

しかし、どんなブームもやがて過ぎ去るのが運命です。売り上げも落ち着きをみせると、「私たち宇都宮スパ屋の存在意義とは一体なんなんだろう?」「他にはない、うちの店ならではのパスタを作りたい」そんなことばかりを考えるようになりました。

でも、できることといえば、休日に人気店や繁盛店を食べ歩くこと。気が付くと年間100店舗以上のお店でパスタを食べていました。月日は流れ、足を棒にして食べ歩いた先に見つけた答え、それは「記憶に残るパスタ」でした。

美味しく食べていただいても、翌日忘れられてしまったら意味がない。次の日も記憶に残り、3日後にはまた食べたくなる。そんな一度食べたら忘れられないパスタを作ろうと決意しました。記憶に残るパスタ、というコンセプトからスタートした商品作り。一度食べたら忘れられない特徴的な味を出すには「ミートソース」ではないか?と狙いを定め、商品名を「宇都宮で一番濃厚なミートソース」と決定して試作をスタートしました。

まずは見た目の見直しです。テーブルに並べられた瞬間から濃厚と感じられるような、黒くインパクトのあるパスタを目指しました。次に着手したのが、最も重要となる味わい。今までのレシピを一から見直し、ソース、野菜、肉をそれぞれ1日ずつ、合計3日間じっくり煮込むことで、通常の3倍も濃厚な味わいが完成しました。濃厚さが3倍な分、手間も3倍かかりますが(笑)。

開発の手はまだ止まりません。一口目からすぐに濃厚な味を感じていただけるように、洋食では通常使わない「黒糖」を隠し味に、フルーツチャツネなどで深みを出しています。他は内緒です。お肉にも妥協は一切ありません。お肉屋さんに特別にお願いした、超がつくほど粗挽きの牛肉100%を使用することにより、ゴロゴロとした肉感を味わえるソースが完成しました。

やっと濃厚なソースが完成した!という喜びもつかの間。ソースが濃厚であればあるほど、既存の麺では味わいが負けてしまうことが判明したのです。パスタ単体でも印象深い味わいの麺はどこを探しても見つからない。であれば、ゼロから作るしかありません。

参考にしたのがコシのある麺類の代表である「讃岐うどん」。讃岐うどんでイタリアンな生パスタを作ったらどうなるか?うどんにならず、どうしたらイタリアンの生パスタにすることができるか?製麺所さんとの研究の結果、粗挽きのデュラム小麦粉を使うことで、どこにもないコシのある生パスタを作ることに成功しました。

さらに、讃岐うどんのような「のど越し」を求め、栃木県産の小麦粉を当店オリジナルの配合で製麵。麺の太さは、女性でも食べやすく、よりソースに絡むように、幅3mm、厚さ2mmという独自の太さにたどり着きました。

開発はまだ続きます。アレルギーの方でも、この濃厚パスタを楽しんでいただきたい。そんな想いから、麺にはあえて卵を使わず、地元、日光連山の伏流水で硬めに練り上げることに。こうして、濃厚なソースに負けない「自家製極太生パスタ」がついに完成したのです。「宇都宮で一番濃い濃厚ミートソース」は、メニューに載せるなり大盛況。TV番組にも取り上げていただきました。

しかし、私たちが本当に喜びを感じるのは、売れるとかブームとかではなく、もっとその先にある、お客様一人ひとりとの思い出です。例えばこんなお客様がいらっしゃいました。普通のミートソースを想像して初めてご来店したそうで、口にすると3倍も濃厚ですから、その日は食べ残して帰られたんです。でもその数日後、「やっぱり食べたくなった」と再来店いただき、その後は「やみつきになった」と頻繁に通っていただいています。また、こんなお客様もいらっしゃいました。あるご夫婦が初デートで食べた「濃厚ミートソース」を、今では生パスタが苦手な3歳のお子様が「濃厚ミートソース」だけは残さず食べてくれると喜んでいただいているお客様。他にも、当店から遠く離れた横浜で、「宇都宮で一番濃厚なミートソース」知ってる?と女性たちが話題にしてくださっているという話を聞いたことなどもあります。そんなお客様一人ひとりとの思い出一つひとつが、私たちにとって最高の喜びなんです。

かつて、とあるラジオ番組がありました。リスナーの方の思い出が詰まった忘れられない味を紹介し、そのお店がどうなっているのか?今はそのメニューを食べることができるのか?など、リスナーの食にまつわる思い出を紹介する番組です。聴いていて目から鱗が落ちました。ラジオなので耳からですかね(笑)。その番組は、「おいしさの星の数」でなく、「お客様との思い出の度数」でお店を紹介する、今までのお店紹介とは全く違ったスタイルだったのです。これこそ、まさしく「宇都宮スパ屋」が大切にしていることでした。私たちが知らないところで、「宇都宮スパ屋」の話で盛り上がっているなんて。なんて幸せなことでしょう。これからも、楽しい出会い、語らいなど、お客様の思い出の「栞」になれるようなお店づくり、メニューづくりを大切にしていきたいと思っています。

私、「加藤裕のこだわり」を最後まで読んでいただきありがとうございました。読んでくれたあなたに感謝を込めて、私のこだわり商品を特別に割り引きさせていただきます。どうぞお楽しみください。

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